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九条の姫の存在抜きでは、成立しえない優しい時間。

優しい時間
八千草 薫
世界文化社
1999-11



八千草薫も素晴らしいし、倉本聰の手腕にも唸らされる。シナリオの組み立ての妙に唸らされる。睡眠中の心臓の鼓動に?老人にはわけがわからんスマホの機能?まず本筋とは関係のない話を振っておいて。

次に九条摂子のド忘れからつながって、ボケが始まった妻との日々がよみがえる。とっても悲しい想い出なのに、とっても優しい気持ちになる。どういうこと?




認知症は時間の感覚を麻痺させる。しかし果たしてそれは悪いことなのか?時間を忘れてしまうことは、無上の愉楽ではあるまいか?

風吹ジュンは、石坂浩二の涙をその目で見ていない。「涙を溜めているんでしょう?」と問いかけてそれっきり。それでおしまい。つづきを見たのは姫だった。妻にも見せない夫の涙を姫は見た!


そうして時間は溶けたのだ。時間をとろかす姫の魔力。八千草薫の魔力である。天使は悪魔か悪魔は天使か。「意外とわたし、悪い女、でしょ?」

八千草薫
文藝春秋
2011-11


⇒次回(第60話)へつづく。